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大阪地方裁判所 平成元年(ワ)3056号 判決 1989年7月14日

大阪府交野市梅が枝四二番二一〇号

原告

向井一

東京都千代田区霞が関一丁目一番一号

被告

右代表者法務大臣

谷川和穂

右指定代理人

下野恭裕

辻浩司

龍神仁資

高袖富士夫

大阪市中央区城見一丁目四番二七号

被告

株式会社近畿銀行

右代表者代表取締役

神阪昂哉

右訴訟代理人弁護士

三宅一夫

入江正信

山下孝之

坂本秀文

上原理子

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、連帯して金一八円を支払え。

2  訴訟費用は、被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、平成元年四月一二日被告株式会社近畿銀行(以下「被告銀行」という。)寝屋川支店に対し、金一万円を、株式会社大阪銀行交野支店にある有限会社マキ電業社名義の預金口座に振り込むことを委託し、その際、被告銀行から、振込手数料金六〇〇円のほかに消費税相当分として一八円を強制的に徴収された。

2  消費税は、一般消費者において負担すべきものでなく、被告銀行は、右一八円を不当に利得したものである。

3  被告国は、行政指導の名の下に、右金員の徴収を被告銀行等の業者に教唆しており、原告に生じた右金員の損失を賠償すべき義務がある。

4  よって、原告は、被告らに対し、連帯して右損失金一八円を支払うことを求める。

二  請求原因に対する認否

(被告銀行)

1 請求原因1の事実のうち、原告主張の日時、場所において、原告が、被告銀行に対し、振込手数料として六〇〇円のほかに消費税相当額分として一八円を支払ったことは認めるが、原告が一八円の支払いを強制されたとの点は否認する。平成元年四月一日から消費税法が適用されることとなったため、被告銀行を含む全金融機関は、各種手数料を、従来の手数料額に消費税相当額を加えた金額に改めることを定め、本件のような他行宛電信扱いの三万円未満の振込についても、六一八円の振込手数料が必要となったが、被告銀行においても全営業店舗の窓口に改訂した手数料一覧表を掲示し、顧客交付用の一覧表も備え置いており、したがって、原告は、本件振込手数料が、右消費税相当額が含まれた手数料であることを承知したうえで、本件振込を被告銀行に委託したものであり、その支払は強制されたものではない。

2 同2は争う。本件振込という役務の提供に対する消費税の納税義務は、その役務の提供者である被告銀行が負担するものであって、役務の受益者である原告が負担するものではなく、原告が支払った一八円は、被告銀行において右消費税相当としてこれを課税対象取引の相手方たる原告に転嫁したものである。そして、消費税相当額を転嫁するか否かは、取引当事者間の値決めの問題であって、被告銀行は、従来の振込手数料に対する三パーセントを転嫁することとし、被告もこれを承知のうえ本件振込を被告銀行に委託したものである。したがって、右一八円は、振込手数料の一部として支払われたものであり、被告銀行が右金員を不当に利得したものではない。

被告銀行が原告から受領した消費税相当額一八円は、消費税法に基づいて国に納付するものであり、法律上の原因に基づくものであるから、被告銀行が不当に利得したものではない。

(被告国)

請求原因1の事実はいずれも知らない。

同3の事実は否認する。被告国は、税制改革法及び消費税法の規定にしたがい、消費税の徴収等に関して、広報、相談、指導等のため各種の措置を行っているにすぎず、被告国の講じている各種措置は、右法律に基づくものであって、何ら違法ではない。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録に記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

一  請求原因1の事実は、原告と被告銀行との間においては争いがなく、原告と被告国との間においても、成立に争いのない甲第一号証によってこれを認めることができる。

二  平成元年四月一日税制改革法及び消費税法が実施されたことは、当裁判所に顕著であり、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる丙第二ないし第四号証によれば、被告銀行が原告から消費税相当分一八円を加えた六一八円を振込手数料として徴収したのは、右法令に基づき、振込という役務の提供に課税される消費税相当分をその委託者である者に転嫁することとしたことによるものと認めることができる。したがって、被告銀行による右一八円の徴収は、法律上の原因に基づくものであり、被告銀行においては、不当に利得したものではない。

また、被告国に対する主張についても、被告銀行による右一八円の徴収が不当利得にあたることを前提とするものであるから、これが不当利得にあたるものでない以上、失当であるといわなければならない。

三  以上によれば、原告の本訴請求は、いずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中込秀樹 裁判官 西岡清一郎 裁判官 野路正典)

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